よしなしごと

よしなし‐ごと【由無事・由無言】つまらないこと。益のないこと。たわいもないこと。とりとめもないこと。

説明会が終わってフライトまでの時間、とにかくちらっとでもいいから見ておこうと、国宝 伴大納言絵巻展出光美術館へ行った。ちょうど有楽町で乗り換えだったし、上中下の三巻ならなんとか見られるかなあと駆け足で。

前日に『すぐわかる絵巻の見かた』でちょろっと予習しておいたんだけど、実物は予想以上にすばらしかった。人物が実に生き生きと描かれていて、火事を一目見ようと興奮する大勢の野次馬達、高みの見物を決め込む役人達、その向こうに空白を大胆に使って静かにたたずむ伴大納言がただひとり描かれている。その場面構成がすばらしい。いろいろな表現技法(すやり霞、異時同図法、火焔表現)もさることながら、植物や装束の柄も細かく書き込まれていることなど、どの観点からみても見応えのある作品だった。

絵巻ということで言えば、昨秋に見た「源氏物語絵巻」と対照的だと思った。すべてを描かず、見る者があれこれと想像する楽しみを残しておいてくれるのは共通しているのだけれど、「源氏物語絵巻」のそれは、絵巻の向こう側に物語の背景、登場人物の人間関係、感情など、物語が持つ深遠な世界が広がっていくように感じるのに対し、「伴大納言絵巻」のそれは、まるで登場人物達が絵巻のこちら側に飛び出してきて、見る者がその場に立ち会っているかのような臨場感を与えてくれるのである。

そういう印象を感じさせてくれることからも、会場内に絵巻を巨大パネルにして、その前に立つと絵巻の中に入り込めるような気分が味わえるコーナーが作ってあったのはとても面白い企画だと思った。登場人物を160cmほどに引き延ばして、あたかもその人と対面しているような気持ちになれたり、CG技術を駆使して巻皺を目立たなくした画像の展示など、とても意欲的な展示だった。すべてをじっくりと見られなかったのがほんとうに残念。でも、三巻すべて実物を見ることができたし、応天門の変の目撃者の一人になれたような気持ちにさせてくれるこの作品のすばらしさを知ることができた。出光美術館、なかなかやるな。他にもすばらしい作品を収蔵しているようだし、ガラス張りの窓から皇居が一望できるし、何度も足を運びたくなる美術館になりそう。