よしなしごと

よしなし‐ごと【由無事・由無言】つまらないこと。益のないこと。たわいもないこと。とりとめもないこと。

金曜日の職場のボスが、今年中には透析にはいるとのこと。脳梗塞心不全と違って真綿でじわじわと首を締め付けられるような恐怖感があると言っていた。全盛期には論文が何本も教室から出てすごい業績だったのになあ。いっときは学長選までねらってたのに、それも2年くらい前には諦めてしまった。今は「生き延びる方が先や!」とさばさばしているけど、悔やまれることも多いのではないかと思う。このことと関係があるかどうか、ここのところ「まとめ」「総仕上げ」的な仕事が時々ある。

晩ご飯は、スモークサーモンのちらし寿司、天ぷら(かき揚げ、レンコン、なす)、茶碗蒸し。

ここのところ、根本きこ、というヒトを注目しているんだけど、

遅めの和ごはんと夜ふかしおやつ

遅めの和ごはんと夜ふかしおやつ

は意外にも、食材も調理法も器も、あまり我が家では参考にならないな、という感じで、料理自体もこれ作ってみようというレシピがほとんどないのだった。料理本はどんな本でもたいていこれ作ってみようというレシピがひとつやふたつあるものだけど、これはいったいどうしたことだろう。不思議でならない。どうしてなのか考えてみると、この写真の中の世界と自分の今(あるいはこれから)の生活とあまりにもかけ離れているからなのだと思い至った。彼女の世界は古い建物に古道具や使い込まれた物という渋いイメージ。それらの道具たちは、根本きこ、というヒトによって生かされているから、すてきに見えるのであって、シロウトの私などが使うとたちまちただの「がらくた」になってしまうに違いない。

そんな訳で、少し彼女から気持ちが離れたんだけれど、この本を読むことによって少し彼女の世界の秘密を読み解くことが来たような気がする。

台所目録 (天然生活ブックス)

台所目録 (天然生活ブックス)

彼女の「台所道具」のひとつひとつが、見開きの左ページに出会いのエピソードや感想が、右ページに写真という構成で紹介されている。それらは古道具であったり、旅先で出会った物だったりするのだけれど、彼女独特の審美眼と価値判断によって求められた物ばかりなのだ。優美な物はひとつもないのに、そこには確固たる根本きこワールドがうち立てられているのである。徹底的に装飾というものをそぎ落としたブレのない姿勢に、近づきがたいものを感じざるを得ないし、一部分を我が家に取り入れるなんてことも不可能だけれど、誰にも譲れない自分だけの世界を作り上げた彼女の姿勢には目を見張らざるを得なかった。

彼女は逗子に「coya」という店を持っており、厨房でフライパンを振っているという。これは夢の夢の話だけれど、もしも私がどこぞの山麓にでも、古い小さな山小屋を持つことができたら、あたたかみのある道具だけで自分の台所を築き上げてみるのも悪くないとふと思った。彼女が海なら私は山で。