よしなしごと

よしなし‐ごと【由無事・由無言】つまらないこと。益のないこと。たわいもないこと。とりとめもないこと。

NIHに留学中のAドクター、一時帰国中で教室に顔を出してくれる。1年9ヶ月ぶりの帰国だという。日本でのほほんと暮らしていると、1年9ヶ月なんてあっという間で、まわりの変化なんてそう感じもしないけど、外国でそれだけの時間を過ごすと、ずいぶん浦島太郎になってしまうらしい。まず、新札を初めて見たんだって。ギター侍も初めて、というか、すでに落ち目ですよと突っ込まれると落ち込んでた。梅田界隈もハービスエントができたり、梅田阪急のところは工事してるし、ずいぶん変わったねえと言っていた。日本に戻って数日たっているのに、まだ気持ちがなじまないんだって。

このAドクター、超遊び人、クールで、おしゃれで(洋服はいつもアルマーニとかエルメス)、とらえどころのないヒトだったんだけど、いまや留学先で人が変わったように研究しているらしい。送り出した時はボスと密かに3ヶ月で逃げ戻ってくるんじゃなかろうか…などと心配していたのがウソのようだ。今回の帰国は、留学期間を延長したいって相談だったんだって。「いったいどうしたんだろうねえ、A君は…」とボスの心配すること。

たとえば動物実験。このドクターはサルを使った研究をしているんだけど、サルにはちゃんと専門の獣医さんが付いていて、健康管理や世話をしてくれるらしい。けれどそこはアメリカ、いつもちゃんと面倒を見てくれるわけでもなく、時々ぽかっと来なかったりするんだって。そういう時のために腹を立てず自分で何もかもできるようになっておかなくてはならないらしい。そうなるまですっごい努力と忍耐が必要だったと思うんだけれども、そういうのを決して自慢気に言わないんだよね。どこまでもスマートに、さらっと、さりげなく言うのが、ずいぶんかっこよく見えてしまったのだった。

ちなみにサルは20匹弱いて、体調を見ながらローテーションで協力してもらうらしいのだけれど、やはりサルにとってもストレスな環境で、うんちとかもしょっちゅう投げつけてくるんだって。

夜は飲み会。話が盛り上がって、10時を過ぎたあたりから早く帰りたくてたまらなかったのだけれど、内容が内容だけに水をさすことができずにじっとつき合う。12時近くになってようやく解散になったので、急いで外に出てタクシーに飛び乗った。話好きな運転手さんで、「この時間のお客さんの割に全然お酒臭くありませんねー」と言われる。うーん、「この時間」だとよっぱらいばっかりなんだろうなあ。タクシーの運転手さんもたいへんだぁ。「えー、まあ、しゃべってばっかりであんまり飲んでませんから」と言うと、「そうでしたかぁ」と。うちのだんなはいつもへべれけなので、「こいつ、酒くせー」とか嫌われてたんだろうな。

話は続いて、「最近の女性は見た目だけではわかりませんなあ」と言う。「肩出しておへそ出してるから若いなあと思ったら、ダンナも子どももいるというじゃあありませんか。だんながそういう格好すな、と注意すべきですよ」と、何度も繰り返し言っていた。女性のへそ出はよほど腹に据えかねるらしい。私的にはお腹が冷えて下痢するんじゃなかろうかと、そちらのほうが心配なんだけれども。自分がそういうタイプだからね。

家に戻ると、夫の手配してくれた立派なピオーネが届いていて、帰りが遅くなったのが余計肩身が狭い。「帰ったよ」メール書にわびとお礼を書き、飲み会のことも書いておきたくてもういっこのほうを更新したり、布団に入ってからもなかなか寝付かれず(いつも夜は家で静かに過ごしているので、たまに飲み会なぞにでかけると気持ちが休まらない)、結局スタンドの明かりを消したのは2時過ぎだった。